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「原動力は喜んでいる姿」創業約100年を迎えた朝日町の畳店

今回、朝日町で創業約100年を迎えられた畑畳店で、現在3代目として活躍されている畑隆志(はたたかし)さん(以下:畑さん)にインタビューをさせていただきました。畑さんは、1級畳製作技能士・全日畳品質管理責任者・畳ドクターの資格を持っておられるとのことです。

――本日はインタビューを受けてくださり、ありがとうございます。よろしくお願いします。

畑さん: はい、よろしくお願いします。

――創業約100年ということで、ここまで長く続けてこられたのは何か原動力があったりしますか?

畑さん: ホームページには約90年と記載されているのですが、現在は創業約100年を迎えたと思います。創業についての資料も残っておらず、父親の記憶も曖昧なので結構緩い感じで、そこまで創業年数にこだわりはないのであまり気にしたことはないです。

――なるほど、創業約100年はすごいですね。現在、3代目として切り盛りされている畑さんですが、いつごろから継いでいこうと思い始めたのですか?なにかきっかけはあったのですか?

畑さん:
 高校卒業後は、大阪の短期大学に通っていたのですが、そろそろ就職を考えないといけないという時期に、これといってやりたいことがなくて。元々もの作りが好きだったというのもあって畳屋を継ごうかなと思いました。そして、埼玉県にある畳の専門学校に3年通って朝日町に戻り、畳屋を継ぎました。

――そうなんですね。お父さんの仕事姿を見ていたことが継いだ理由だと思っていました。

畑さん: 昔から畳屋になるという考えはなかったし、父親からも「継げ」とも言われなかったけど、就職活動で畳屋になるという選択肢になりました。


畳の寸法を測り、余計な部分を切る畑さん

――この仕事をやっていて良かったなって思う場面や、やりがいを感じた場面はありますか?

畑さん: やりがいはやっぱりお客さんに「綺麗になった」とか「いいがなった」って喜んでもらえることですね。それが一番の原動力になってます。

――逆に、今までで一番大変だった業務はありますか?

畑さん: 繁忙期はやはり忙しいですね。納期が重なったり、現場仕事や山仕事も入ってくるので大変です。休みはあってないようなもん。自分がやらんと誰もやる人がいなくなるから、結局やらんなん時はやらんなんって感じです。逆に暇なときは暇やし。冬場になったらオフシーズンだと思っています。

――冬場は、そこまで仕事が入らないんですね。富山の冬は晴れる日が極端に少ないというのを聞いたことがあります。やはり、冬は曇りや雪の影響が大きいのでしょうか?

畑さん: やはり風土的にどの商売もだと思いますが、冬場は雪が降ってるから動きが止まるんです。「寒いし、春になってからでいいか。」って感じで春から再開することが多いです。逆に冬が来るまでは忙しいです。うちでは、畳の修繕は晴れの日に行っていて、曇りの日は基本行わないので、曇りが多い冬はあまり行っていないです。あと、梅雨の時期はそこまで仕事を入れないようにしています。


――そうすると、冬に入ると途端に仕事がなくなる感じですか?

畑さん: 正月に子供や孫、親戚が帰ってきたり、お客さんがくるから畳を入れてほしいという連絡があるので、12月31日の年末まではどうしても忙しいです。


真剣なまなざしで長さを測る畑さん


――なるほど。ところで、梅雨の時期は仕事を入れないようにされていると言っていましたが、畳を作ってから梅雨がひどい時期にカビができるということと関係はありますか?

畑さん: 1回カビが発生したら、新しいカビは発生しないのだけど、カビの発生する時期は曖昧で1年目に発生するときもあれば、2年目に発生することもある。空調管理をしっかりしていたら5年目にして発生する場合もあります。これはい草に限った話で、逆に建材だと呼吸していないからカビは発生しづらいです。天然のい草と比べると建材は、カビが発生しないというメリットはあるけど、香りもないし、調湿効果もないので寝転がってもあまり気持ち良い感じはしないと思います。

――天然のい草のメリットは香りが良いことや断熱性に優れている、調湿効果があること等が挙げられると思うのですが、デメリットはカビが発生してしまうということが挙げられるのでしょうか?

畑さん: カビが発生してしまうことだけがデメリットじゃないかと思います。逆にカビが発生する以外はデメリットはないと思います。たまに、香りに敏感な人は、い草の青い香りが嫌いな人もまれにいます。日本人の9割9分が大体その香りが良いと刷り込まれているからよい香りという認識になるけど、香りが強くて部屋に居れないといったこともありました。
あと一部のお蕎麦屋さんでは、蕎麦の香りを引き立てたいから新しい畳を入れたくないということで裏返しした畳でまだ綺麗な中古の畳を入れてあげて蕎麦の香りを邪魔させないようにしています。


――お蕎麦屋さんにはそういったこだわりがあるのですね!初めて知りました。
では、仕事をするうえで最も大事なスキルは何だと思いますか?

畑さん: 大事なスキルは、他の畳屋さんと違うところだと、几帳面というか細かいところ。お客さんに言っても言わなくても分からんようなところの精度を上げています。寸法を測るにしても、やっぱり部屋の床はゆがみがあって高さが違ったりする。そこをきっちり細かく測ってます。

――凄いですね。この寸法が雑だと仕上がりも全く異なってきますか?

畑さん:そうですね。この寸法を雑にやって仕上がりも雑にやってしまうと、「雑×雑」で丁度よくなる場合もあれば、「雑×雑」でもっと駄目になることもあります。現場で汗かいてわちゃわちゃ一生懸命畳を入れるよりもスマートにスッと入った方が気持ちいいんですよね。スマートに入れるには精度を上げてとにかく細かく測って仕上げます。

――こだわりがあるんですね。こういった作業をする際に、こちらには最新の機械が導入されていると思うのですが、その機械を活用されているのでしょうか?

畑さん: 新しい機械を導入しても、手作業と機械を比べると機械の精度には限界があります。機械でもまっすぐ作れるんやけど、例えば柱の切込みや寄木などの畳の周りに木は全然真っすぐじゃない。そういう部分はどうしても機械だと難しいから手作業になります。


新しく導入した機械

――機械をメインとしてではなく、手縫いと機械半々で作業を行っているのですか?

畑さん: メインは機械を使っているのですが、細かい仕上げは手でやっています。手というか目も使っています。機械には任せないです。


――そうなのですね。そう言えば、畳を保護する際に使用される畳縁(たたみべり)は結構定番だと認識しているのですが、最近は畳縁無しの畳も見かける場面も増えているような気がしています。そのあたりについてはどうでしょうか?

畑さん: ここ10年、15年の流行りです。和室が減ってきていて、要は普通の和室の造りがいらなく、今の洋風の造りに合う合わないがあるから、い草や天然物を使わずに建材を使ったりしています。


手を入れる前の畳

畳に縁を付ける際は、い草が出ているところをポキッと曲げるのだけど、縦方向は中の糸を曲げているだけだからい草に負担は掛かりません。でも、曲げているところは負担が掛かってしまうから曲げた部分からすぐにダメになってしまう。そこを守るために縁が付いています。

畳は使い捨てではなく、一度使った畳でも裏返すことでもう一度使うことができます。裏返して使うことができる畳は、畳縁が付いている畳だけです。どうしても角が傷みやすいのですが、畳縁が無い畳の場合、曲げてあるい草を反対側に曲げてしまうと、折れてしまうためもう使えないです。だけど、縁が付いている場合、両側が切れているだけで同じ寸法なので裏返してもう一度縁を付けてあげることで、そこから10年とか15年はもう一度使うことができます。

日焼けた畳表と日焼けしてない畳裏


――日焼けすると表と裏でこんなにも色が変わるんですね。表が日焼けしてしまっても、裏を再利用することができ、さらに10年は使用することができるというのは環境にとってもとても良いですね。


――話を聞いていて気になったのですが、畳を作る際の切れ端や廃材、不要になった畳縁の生地、畳等が出てくると思うのですが、何か活用されてたりするのでしょうか?

畑さん: 畳の縁の生地はしわになりやすくあまり好きじゃないので何かを作ったりはしていないのですが、どうせ捨てるので切れ端を切って町の料理屋さんに「何回か使って梅雨の時期にはカビも発生するので使い捨てでコースターとして使ってください」と言って提供しています。他にも、昔は畳の財布を作っていました。自分のために趣味で作っていたけど、周りから「くれくれ」と言われたりして、でも1個作るのに1日以上掛かってしまい、クオリティーもそこまでということもあり、だんだん作らなくなっていきました。
趣味で畳の切れ端や畳縁を使って何か作りたいという人には、切れ端や畳縁をあげています。最近は、切れ端をクルクル巻いて筒状のものを作って鉛筆立てや写真立てで使っています。


畳の廃材で作った鉛筆立て

――畳から出た廃材を昔から活用していらっしゃるということで、発想がすごいですね!「畳とSDGs」の繋がりや畳の奥深さを知ることができた貴重なインタビューとなりました。
改めてありがとうございました。




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