空き家となった元商店。もう一度、この町で人が寄り集まることのできる憩いの場へ
今回は朝日町山崎にあるcafe勘助の店主、宮腰二三代さんにお話を伺いました。長年お勤めになった学校事務のお仕事を退職され、全くの異業種となるカフェを昨年5月にオープンされた宮腰さん。お店は、宮腰さんのご実家を改装してオープンされました。
ご実家でカフェを始めようと思ったきっかけを教えてください。
私の実家は、元々は祖母の代から商店を営んでいたんです。祖母、母とお店をやっていましたが、お店をやめてから空き家になっていて。最初は、その空き家を売れないかと相談したんです。お店をしていた家なので、大きすぎて売るのはなかなか難しいと言われてしまって。空き家のままでも管理はどのみちしないといけないので、それなら何か活用できないかと思い、お店をやってみようかな、と。
ただ、活用というか、改装してお店をやれば、同じようにお店をやりたいと思う人が買いたいと言ってくれるんじゃないかな、と思って。ここでもし住まいをしながらお店をやりたいという人が現れたら、その方にお譲りしたいと思っているんです。
cafe勘助は、空き家をお譲りするためのアイデアから誕生したんですね。
空き家の相談に伺った時に、そのようなことをされている方のお話を聞いたんです。砺波の方で古民家を改装して民宿を始められて、始めは上手くいくかなと心配されていたそうですが、少しずつお客さんがついて、3~4年後に若いご夫婦で譲ってほしいという方へお譲りされたというお話を聞きました。それなら私もお店をやりながら、やりたいという人が現れたらお譲りできたらいいな、と思って。古い家の付加価値を上げるためですね。
あと、空き家問題もですが、朝日町の過疎化についても考えました。年配の人たちが寄って話をすれば、また地域が元気になるでしょう。そうやってここが寄り合いの場になって、地域を活性化できれば一石二鳥になると思ったんです。
まさにその思いの通り、ご年配の方、地域の方にとって、寄り集まることのできる憩いの場になっていますよね。
おかげさまで…。お店に来られた人同士が楽しんでおられるのを見ると、お店を始めて良かったなと思います。
メニューは、選べるランチからスイーツまで、すべて手作りされているんですよね。
そうですね。
お店がある日は、前の晩から仕込みをしています。押し寿司のサバを仕込んだり、副菜のおかずを準備したり。朝は6時に起きて押し寿司づくり、豚汁用の野菜の下準備などを済ませて、そこから家族の朝ごはんやお弁当づくり、その片付けを終えて、だいたいお店には9時頃に来ています。お店に着いてからは、お米を炊いて、豚汁、デザートの準備をして、みそかんぱも成型までしておきます。あとは店内の掃除もして…。そうこうしていたら、11時の開店まであっという間です。ずっと2時間動きっぱなしで、オープンの時には既に疲れていたりします(笑)
ドリンクの提供などもすべてお一人でされているんですか。
今までは一人ですべてやっていたんですが、アルバイトの方にもコーヒーの淹れ方を覚えてもらおうと、現在、先生に指導してもらっているところです。
コーヒーの淹れ方も、豆は同じでも、淹れ方によって味が全然違うんですよ。
コーヒーの先生がおられるんですね。
お店を始めようと思った時、カフェといえばまずコーヒーがいるでしょう。それで、豆をどこで仕入れようかと考えていた時に、たまたま友達と飲みに行ったコーヒー屋さんが、すごくおいしくて。帰ってからインターネットで検索したら、そのお店のマスターが新しくお店を始めたい方への開業支援をされていると知って、すぐにメールを送りました。返信をいただいて、それからお店にも何度か足を運んでいただいて、今お店で提供している勘助ブレンドは、マスターと二人で色んなコーヒー豆をテイスティングして、うちの店に合うような豆をブレンドしてもらったものです。豆の他にも器具は何を準備したら良いかなど、オープンに向けて色々とサポートをしてもらいました。
勘助ブレンドの誕生秘話ですね!
たまたまコーヒーを飲みに行ったお店で、そういう出会いがあって。私、すごく運が良いと思うんです。オープン前もたまたま山崎地区の取材で新聞に取り上げてもらったり、オープンしてすぐのタイミングで、今度はテレビのロケ番組がたまたま来られて、宣伝してもらったり。去年1年間、本当にツイていたなと思います。
地元の方はもちろん、町外から来られているというお客様も多い印象があります。今日は、前職でのお知り合いだという方もおられましたよね。
長年勤めた学校事務職員というお仕事は、出会う人が他の職業より多いんじゃないかなと思います。だいたい3年ごとに異動があって、県内の小学校、中学校、養護学校、県立学校、教育委員会と回り、20校くらいの学校を異動したので、それぞれに知り合いがいるんです。全員と仲良くなるわけじゃないけれど、その都度その都度出会う人がいるでしょう。それぞれの学校で親しくなった方が訪ねてきてくれたり、また他の人に声をかけて連れてきてくれたり。ありがたいな、と思いますね。
また地元の人は、昔商店をやっていた時のことを知っている常連客の人たちが懐かしがって来てくれるんですよ。ここで生まれ育っているから、私の小さい時も知ってくれているんです。その小さい時から知っている私が、「○○ちゃんがお店始めたから行ってみよう」って来てくれたり。それもやっぱり、ちょっと他の人と違うのかな。昔ここがお店だったっていうことと、ここで生まれ育った強みなのかなと思います。
そして勘助さんといえば、小さな作品展のような店内の展示も印象的です。
お店で作品の展示をする、というのはやりたかったことなので、改装する時に壁を白く、ライトも移動できる照明にしました。自分が絵を好きなので、持っている絵もたくさんありましたし、オープンする時に「ぜひ飾って」と持ってきていただいたこともありました。私からお声かけをした方もおられます。
この町の方は皆さん本当に良いものを持っておられて、朝日町は芸術の街だなと感じますね。
また作品展だけでなく、色んなイベントも開催されていますよね。
お店を始める時に、空いている他の部屋も有効活用したいと考えていました。今はカイロプラクティックやベビーマッサージ、ワークショップ等をやりたいという方へ、空き部屋をお貸しして使ってもらっています。
今年の5月でオープンされてから1年を迎えられましたが、お店をやっていて良かったな、と思われるのはどんな時でしょうか。
ここにいなければ出会えない人に出会えることが楽しいですね。お店に来られる方を見ていると、人って本当にそれぞれ魅力があるな、と思います。それぞれ持ち味があって、そういう人たちが寄り集まったら、なんて楽しいんだろうって。
あとは、やっぱり帰る時に「おいしかったよ」と言っていただけると、その一声が励みになりますね。
では最後に、cafe勘助のこれからについて教えてください。
将来このお店を利用して、自分たちの夢を叶えたいという人が現れてほしいと思っています。私のお店はそれまでの繋ぎとして、5~6年できればいいかな、と思っているんです。庭も広いですから、畑をして野菜づくりをされても良いですし、窯を作って陶芸なんかされても良い。色んな夢を持っている人に、この家と土地を有効に活用していただけたら嬉しいなと思っているので、それまでの間頑張ろうと思います。
空き家の再利用だけでなく、それを活用して地域活性にも一役買っているcafe勘助。これらの取組はSDGsの目標である「11.住み続けられるまちづくりを」「12.つくる責任、つかう責任」に繋がります。
取材の中で、「私は運がいいんです」とおっしゃっていた宮腰さんですが、それはきっと宮腰さんのあたたかいお人柄と、そのお人柄が引き寄せるご縁なのだと思います。そんな店主・宮腰さんを囲みながら、今日もcafe勘助では訪れた人々が新しい出会い、会話を、あたたかい手作りの味とともに楽しんでいます。
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