「モノづくりが好き」から紡がれた”今”という大切な時間
今回は、漆を使用したアクセサリーや箸などを製作している黒崎由紀さんにお話を伺いました。黒崎さんは2019年夏より『越久米作(コシノクメサク)』として活動しており、今年で5年を迎えます。
最初に、漆とはどういったものですか?
漆は、ウルシの木から取れる樹液のことで、ろ過することで「生漆(きうるし)」となります。漆は日本で古くから塗料や接着剤として使用されています。
生漆自体は乳白色で、生漆にナヤシ(かき混ぜて漆の成分を均一化する)やクロメ(加熱して余分な水分を取り除く)といった精製作業を行い、精製漆を作ります。精製後の漆は、透明な漆で「透漆(すきうるし)」と呼ばれます。また、精製作業において鉄粉を混ぜ、酸化作用により漆を黒くした「黒漆」や「透漆」に顔料を加えて朱や緑といった「色漆」をつくることで作品に色合いを出すことができます。
今のお仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
小さい頃から絵を描くことや工作が好きで、大学では漆工芸を専攻していました。ものを作る手段は木工や金属などたくさんありましたが、なんとなく縁があり漆を選択しました(笑)。私が小・中学生時代に母が仏壇の蒔絵(まきえ)をしていたこともあります。また、大学で良い先生や同期に巡り合えたこともあり、授業が楽しく、自分にも合っているなと感じました。
※蒔絵=漆で絵や文様を描き、漆が固まらないうちに蒔絵粉(金・銀などの
金属粉)をまいて表面に付着させ装飾を行う技法
『越久米作』の前はどういった活動をされていましたか?
私は入善町出身なのですが、大学卒業後は入善町で生活道具や器を作成し、展示会やグループ展で発表していました。結婚を機に朝日町に移住し、家族との生活を大事にしたいと思い、本格的な製作活動は10年くらい行っていませんでした。子育てが落ち着き、やっぱり作る仕事がしたいと思い、5年程前に『越久米作』として新たに活動を再開しました。
10年のブランクを埋めるのは大変だったのでは…。昔と今で作品のジャンル、販売方法が異なっているのは、何か理由があるのでしょうか?
本格的にではなかったですが、ちょこちょこ手を動かしてはいました。製作していない期間でも、日々の見たもの、聞いたものの経験が良い形となって作るものに繋がると信じていたので、特に心配は無かったです。
昔は器などの生活用具がメインでしたが、現在のライフスタイル、生活環境に合わせて、アクセサリーや箸などの小物がメインに変わりました。器を作るとなると作業場所はそれなりに必要ですし、大きな設備も必要なので。
あとはSNSが普及したことが大きいなと感じます。昔と違い、名前を知らなくても見てもらえる機会が増えたことで、販売の手段が広がり、現在は、インスタによって作品の紹介・ネット販売のPRがしやすくなりましたね。ほかにも、多くのクラフトフェアやハンドメイドイベントが各地で開催されるようになりました。丁寧に仕事し、ものを作り、ブランドがしっかりと確立したお店にできれば、多くの方に作ったものを見てもらえます。
漆の作品はどういった方に人気があるのでしょうか?
ブローチ、イヤリング、ピアスなどのアクセサリー系は40代以降の女性に人気がありますね。箸はファミリーや若年~年配の方まで幅広く購入いただいている印象です。漆と聞くとどうしても高い・取り扱いが難しいというイメージが強く、敬遠しがちな素材になりやすいです。漆アクセサリーはプレゼントとして購入される方も多いですね。漆を知らなくてもひと目見て「綺麗だな」「いいな」と思って購入してくれる方も多いです。
確かに…。漆は良い意味で高級感がある、逆に高級だから手が出ないという方が多いのかもしれませんね。
そういう方はおられると思いますね。私の作品は”作る人”と“使う人”があってだと思いますので、日常生活に溶け込みやすく、手に取りやすいデザインを意識して、漆の良さを感じてもらいたいですね。それこそ、「えっ!これって漆でできてたんだ!」と最後に感じてもらえる形でもいいと思っていて、たくさんの人に漆を知っていただければ嬉しいです。
漆の商品は綺麗な印象がありますが、どういった工程で作られていますか?
まずは、アクセサリーの場合は樹脂を、箸の場合は木材を加工し素地を作り、下地工程を行い、補強し、形を整えます。その後、漆の下塗り→乾燥→中塗り→乾燥→上塗り→乾燥と塗り重ねて完成です。多くの工程を経て丈夫で長持ちするものが生まれます。美しい漆面、艶が出て綺麗な色合いが出るのも、それまでの工程からくるものです。
漆自体は漆屋さんで販売されているものを購入しています。絵の具屋さんで絵の具を買うのに近いですね。
色も綺麗ですが、触った感じも良いですね。黒崎さんが思う漆の良さとはなんでしょうか?
漆の特徴として美しい艶や色感、手触りが良く使いやすいこと、耐水、断熱、防腐性が非常に高く耐久性に優れており色あせないことなどが挙げられます。私の作品では、アクセサリー含め生活用品に溶け込むことを心がけているので、デザインもそうですが、艶や色感にも良さが出るように意識しています。現在も販売している赤のブローチは、形も意識したお気に入り作品です。
ほかにも、塗りがはげてきたり、欠けてしまったりした場合でも修理が可能です。思い出あるものを長く使いたいという気持ちはとてもいいなって思います。
では最後に、今のお仕事をやってきてよかったと思えたことはどんな場面ですか?
自分のやりたいことができている、たくさんの人に自分の作品を見てもらえるなど日々楽しく過ごしていますが、家族との生活と今の仕事が上手くマッチしていることがいいなと感じますね。最初はものを作るのが好きで始めたことが、良い先生・同期に出会い、ものづくりがさらに好きになり、結婚を機に朝日町で暮らし、子供ができ、家族との生活を大事にしながら、越久米作として活動ができている今が好きで、これからも大事にしていきたいです。越久米作という屋号は、義理のひいおじいさんのお名前をいただきました。縁があって朝日町のこの地域に住んでいるということを大事にしたいなと思います。
国内産の漆の使用はわずか3%。ほとんどが外国産に頼っており、漆の需要が高まれば植樹が今より促進されるかもしれませんね。この活動は、SDGsの目標である「12.つくる責任、つかう責任」「15.陸の豊かさも守ろう」に繋がります。お話を聞く中で、”作る人”と“使う人”という言葉に黒崎さんの作品へのこだわりが込められているなと感じました。インスタの素敵な作品の数々の中、筆者のお気に入りは黒猫のブローチです!とてもかわいいデザインなのに、漆の黒が綺麗な感じを表現している…。いいとこ取りの作品ですね!皆さんもぜひ、直接見て、触って、漆を肌で感じてみてはかがでしょう。
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