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地域おこし協力隊から漁師へ 漁師を通して人に感動を与える

今回は、2018年に地域おこし協力隊として愛知県豊田市から朝日町に移住後、3年間の協力隊活動を経て2021年から朝日町で漁師として働いている徳田聖一郎さん(以下、徳田さん)にお話を伺いました。徳田さんは、約1年前に自分の船を購入し、「聖徳丸」と名付けました。聖徳丸のキャッチコピーは”旨いを届ける”。キャッチコピーの通り聖徳丸は日本全国に旨いものを届けて、人々を笑顔にしています。

聖徳丸と徳田さん

「漁師」という職業は憧れの職業の1つだった

昔から魚は好きだったので、海水浴に行って魚を突いたり、テレビで漁師の仕事に密着する番組を見たり、漁師はかっこよくて憧れの存在ではありました。けれど、漁師は簡単になるような職業ではないという認識があり、漁師になる人も少ない、獲れる量も少ない、給料も安いなど自分の中でもあまりいいイメージが無かったことも相まって、「漁師になるのは無理だろう」と心の中では諦めていました。
愛知県豊田市出身ということもあって、地元の人は、車関係の仕事に就くのが当たり前でした。父親も車関係の仕事をしていて、自分自身も車関係以外の仕事で生活していけるのか不安だったこともあり、高校卒業後は当たり前のように車関係の仕事に就いて働いていました。

漁師を目指すことになったきっかけ

「会社で働いていてもやりがいがなく、なんのために働いているかもわからなかったんです。」そう話す徳田さん。唯一、休日である土日は楽しかったけど、週5日間という生きている中で、かなりの時間を占める仕事という時間を毎日いやいや働き続けるのが嫌でした。仕事内容としてはクレーム対応の仕事をしていたのですが、結構責任がかかる仕事だったこともあり、自分の責任ではないことで怒られて、精神的に参ることも度々ありました。その時ふと、なんのために働いているのだろうと思い返したときに、「今までお金の為に働いていたけど、それってなんかつまらないな」と思いました。実際、上司を見ていても全然楽しそうではなくて、「結局は自分がなにか行動を起こして、自分自身が変わらないと一生このままだな」と考えました。その考えが思い浮かんだのが30歳という自分の中での節目の年だったこともあり、このタイミングがラストチャンスだと考えました。

YouTubeや本を読みあさっていた際に、「もし、車関係以外でやっていくにしてもまずは行動してみなければ変わらない」、「行動しないで今のまま終わるよりは、失敗してもいいから一度何かやってみよう」というマインドになり、行動に移すことにしました。
最初に北海道の北部に位置する利尻島に行き、3か月間の漁業バイトを行いました。利尻島に3ヶ月間行ってみて、「別に車関係でなくても全然いけるな、楽しいな」と感じ始めたことがきっかけとなり、一気に自分の中の考え方も変わり、「何をするにしても何とかなる」という考え方になりました。

「だったら自分の好きなことやりたい」と思ったときに、人に喜んでもらえるような仕事がやりがいがあるなと思いました。元々、食べることが好きだったこともあり、「おいしいものを食べたときに幸せな気持ちになるな」と脳裏をよぎり、「漁師として自分が獲ってきた魚で喜んでもらえるのは最高だな」ということで、漁師の道に進むことを決断しました。漁師として食べていけるか不安もありましたが、とりあえずやってみようと行動に移しました。

漁業を始めるうえで、できる限り色々な漁業を体験して後悔したくないという思いがあったので、ネットで漁業体験ができるところを検索して、体験できるところに片っ端から電話をかけました。利尻島を皮切りに福井や鳥取、和歌山、三重、愛知など日本全国の漁業組合に足を運び、漁業体験をしました。
漁業にもいろいろな種類があって、体験してみないと何が良いか悪いかわからなく、知らないと何も始まらない。後からあっちのほうが良かったなという後悔をしたくありませんでした。

漁場に向かう徳田さん

徳田さんが漁師になるうえで朝日町は可能性を感じた

全国各地に足を運ぶ中に移住することに決めた朝日町もありました。朝日町では、ちょうど漁業関係の地域おこし協力隊を募集していたこともあり、一つの仕事の方法として体験しに行きました。
実際に漁師体験をしたうえで、朝日町に決めたのですが漁協が小さかったのと自然豊かなところが最初の決め手となりました。
大きい漁協になると漁師の数も多いため漁獲量や漁業の規模などルールもしっかりしていて、「あそこの市場に出荷しないとダメ」など決められていたので、あまり自分のやりたいことが通らなそうと感じました。自分の中では「自分が獲ったものを直接届けたい」という気持ちがあり、そのことを泊漁協の組合長に話したら「どんどんやりたいことをやってみればいいよ」と快く言ってくれました。考え方が古くなくて、自分の挑戦に対して背中を押してくれるところに共感し、朝日町に決めました。
自分次第でいろいろやれて、ここなら自分のやりたいことができそうだなと思ったのがやはり大きかったです。
将来的には、山の猟師もやりたかったのですぐ近くに山もあったのもポイントが高かったです。生活するうえで不便なところはなく、富山から地元の愛知まで4時間ぐらいで行ける。後々、愛知に朝日町のおいしいものを届けたいという思いもあったので、立地的にも丁度いいなと思ったのも決め手の1つとなりました。

富山湾と徳田さん

「3年後に漁師になる」という明確な目標を持って、地域おこし協力隊に

地域おこし協力隊になった手前、愛知に帰るわけにもいかないので「漁師に絶対なるぞ」という固い意志を持って活動していました。3年間の地域おこし協力隊の活動では、1年目は町で行われているイベントに積極的に参加して、人脈づくりを行いました。2年目、3年目は漁師になるための軸を固めるために活動をしていました。
漁師として活動するのに必要不可欠な船は、リースとして借りることができたので不便はなかったです。

漁師+αを探して上手くハマったのが通販。販路拡大をした先に見えた希望

元々、組合長からは「漁師1本でやっていくのは厳しいよ」と言われてたので、漁師の勉強はずっと継続しつつ、漁師にプラスして何かをしなければということで最初はイベントの出店をしていました。コロナになる前は県内でもいろいろなイベントがあったので、イベント出店をしていたのですが、2020年にコロナが流行りだしてからはイベントがなくなってしまって、イベント出店も厳しくなってしまったので、魚介類の加工などに焦点を当てました。みんな外出できなくなってしまった影響もあり、お取り寄せの文化が広がりました。自分自身も通販をやらなければいけないなということで「食べチョク」というサイトで販売を開始しました。もともと、販売はしていたもののそこまで積極的にやってなかったので、周りが登録しだしたのに自分も感化され、販売を開始したら、コロナ禍をきっかけにお客さんもすごく増えて、「ホタルイカの沖漬けを食べたらおいしかった」という口コミが一気に広がり、「食べチョク」の中でも人気の商品になっています。季節によって、牡蠣やイクラ、カニなどの商品も出していて、その辺りも皆さん購入してくださるようになり、通販による販売方法が軌道に乗りました。

素潜りと刺し網漁で季節の魚介類を獲る

夏は素潜りでモズクや海藻、貝類(サザエ、アワビ、イワガキ)も採っています。あとは、刺し網という漁法でアカガレイやはちめ(メバル・カサゴ)を獲っています。
春から夏にかけてはノドグロ、秋は鮭、冬から春にかけてはヤナギバチメなど季節の旬の魚を獲っています。
大きい船が行っている定置網という漁はすごくたくさんの量の魚が獲れるのですが、個人でやっている漁師は、定置網と同じ魚を獲っても高い値段で買い取ってくれないため、定置網では獲れないような魚を刺し網漁で狙っています。

素潜りで貝を採る

海から帰ってきて、網から魚を外す作業は近所のおじいちゃんたちに手伝ってもらって、売れないような魚を持って帰ってもらっています。獲れた魚は町の旅館や飲食店に卸しています。飲食店にも卸してはいるのですが、直接お客さんに売るほうが喜んでいる顔を見ることができるので、個人のお客さんをメインに販売を行っています。

網から魚を外す作業

食べチョクで販売されているホタルイカの沖漬けなどの加工品は、徳田さん自身が商品開発と加工を行っている。

海が荒れていて漁に行けない日は、自分で獲ってきた魚介類の加工をしています。特に冬の時期は1週間に1回漁に行けるか行けないかみたいな日が多く、漁に行けない日は何もしないという人が多いのですが、そこでなにか行動することができれば暇な時間も無くなると思って魚介類の加工をやっています。地域おこし協力隊の時から海に出れない日は何をやろうと考えていた時に、町の加工施設が完成したこともあり、加工を始めました。現在はホタルイカの沖漬けをメインで作っていて、加工商品は主に「食べチョク」で販売しています。

漁師になってよかったと思える瞬間はどんな時ですか?

お客さんが楽しみに待っていてくれて、「ありがとう、これが楽しみだった」と言ってもらって喜んでいただけるのが漁師になってよかったと思う瞬間です。
「食べチョク」では、購入したお客さんが感想を書いてくださるのが基本なのですが、そこでも「こんなの食べたことなかった!」「これでまた頑張れます!」などいろいろな感想をいただいています。こういった感想や口コミをいただけてありがたいです。
あと、自分でおいしい魚介類を食べることができるのも漁師になってよかったと思える瞬間です。

仕事で人に感動を与えたり、喜んでもらえることはあまりありません。間接的に喜んでもらえることはあるかもしれないけれど、何に役立っているのか目視ではわかりません。漁師は間接的ではなく直接感謝してもらえる仕事という風に思っていて、漁師の仕事は大変なこともあるけれど、やりがいがあって自分次第でいろいろできるというのも普通の会社員と異なる点で、転職してよかったと思う瞬間です。

漁師という仕事の魅力とは?

1番の魅力は仕事のやりがいです。自分が頑張った分に比例して成果を得られて、今後の可能性にも満ちあふれています。まだ、農業ほどいろいろやっている人がいなく、昔から漁師として働いている人はパソコンに触れないだとか、いろいろ面倒くさいということで加工などには手を出していない気がします。昔は漁獲量も多かったのでそれで全然よかったのですが、これから先を考えると漁師1本で生活していくのも厳しくなると思っています。毎日、魚が一定量獲れるわけではないからギャンブルみたいなところもあって、いろいろ試してみないと当たらないからそこが難しいところではあるけれど、逆にそこが面白いところでもあるというのも魅力の一つです。

海と山が揃っている。海の漁師、山の猟師の「ダブルリョウシ」

海に行けないときは山に行けばいいなと思い、猟師の免許を取りました。山にはそこまで頻繁に行けないので、趣味として狩猟をしています。猟の種類は、罠猟を3人組のグループでやっているのですが、冬場は雪の影響で行けないので、春から秋にかけて行っています。
仮に猟師として獲った獲物を流通させようと思ったら、解体するための加工場などを作る必要があるため結構ハードルが高いのも趣味としてやっている理由です。捕獲する獲物は有害駆除の対象となっているため、獲った肉は自分たちで食べています。

今後の展望や将来の夢はありますか?

漁師はずっとやっていきたいなと思っています。漁師をやりつつ、自分が獲った魚介類を加工していければと思っているので、加工場を建てることができればいいなと思っているところです。今年中に加工場を作れればと思っています。今はホタルイカの沖漬けが主な加工商品になっているのですが、もう少し加工品を増やしていければと思っています。後々は誰かを雇って、そこを任せて自分は新しいことに挑戦していきたいです。
あと、海沿いの町だったら海鮮が有名なお店があってもいいかなと思っているのですが、朝日町にはその場で新鮮な魚を食べることができるお店が少ないと思うので、新鮮な海鮮を食べることができる店をいずれ作れればと思っています。

鍋フェスでカニ汁を提供する徳田さん
カニを大量に使ったカニ汁

これから地域おこし協力隊(漁師)を目指す人に向けて何かメッセージをお願いします。

何をするにしても、目的はある程度決めておいたほうが良いと思います。
この市町村に移住するって決めたら、そこで何をするか先を見据えて行動をするのが大切だと思います。
地域おこし協力隊は、2年目が特に重要だと思っていて、2年目で卒業後どうしようか考えて、3年目は卒業後の自分がやりたいことに向けて行動をするのが良いです。活動に関しては、町のためもあるけれど、一番は自分のためを考えてやらないと、卒業後やっていけないと思います。
今の時代は、調べれば何でも出てくるのでネットで調べて、実際に足を運んでみてほしいなと思います。

この活動はSDGsの目標「11.住み続けられるまちづくりを」「14.海の豊かさを守ろう」に繋がります。
今回、徳田さんにインタビューをする中で「とりあえずやってみる」という行動力に感心しました。また、インタビューの翌日には「鍋フェス」というイベントが開催され、徳田さんはカニ汁を販売していました。カニ汁を食べていた人たちはみんな笑顔に溢れていて、これが徳田さんが言っていた「人が喜んでいる姿を直接見ることができる」なんだと思いました。
今後の徳田さんの活動にも期待していきたいです!



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