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指物作りが日々の暮らしを形成する

 今回は、朝日町で指物を作成されている寺田洋子さんにお話しを伺いました。寺田さんは、東草野のご自宅に工房とギャラリーを構えています。

今回の取材で初めて”指物”という言葉を知りました。指物とは何でしょうか?

 指物とは、釘などを使わず、木の板に凹凸を掘り、差し合わせて作る木工品のことを言います。使用する木材が決まったら、万能機や旋盤で木材を切断・削り整え、凹凸を作る部分に印をつけます。鋸(のこ)や鑿(のみ)を使って凹凸部分を作ったら仮組をし、問題なければカンナをかけます。最後に本組をし、仕上げのカンナをかけ、漆を塗れば完成です。漆を塗ることで木地表面を保護し、木目の美しさもよくわかります。

繋ぎ目を組み合わせる。完成作品では繋ぎ目は見えません。

なぜ指物を選んだのですか?

 大学時代は建築の勉強をしていました。建物を作るには図面で考えて図面で表すのですが、私自身、卒業後の仕事を考えた際に「自分の手で形作る物の方が合っている、実はやりたいこと」、「作るなら暮らしにあるものがいいなあ」という思いを持っていました。その時、知人から北山利一さん(以下、師匠)を紹介していただき、師匠の作品に感動し、「自分もこういうのを作りたい!」と思い、勉強しました。一般的な弟子ではなく、自分で作った作品を見せに行き、直しが必要な点を教えてもらう日々を過ごしました。

ギャラリーに素敵な作品が並んでいますね!

 ありがとうございます。主にお茶道具や棚、箸、お盆、アクセサリーなど自分が暮らしにあったらいいなと思うものを作っています。特にお茶道具(茶箱・棗・香合など)を作るのが好きで、天気の良い日には作った茶箱セットを持って出かけることもあります。今年の春も、お気に入りの満開桜の下で野点を楽しみました。

お気に入りのお茶道具。茶碗を包む仕覆もお手製!

この素敵な作品の数々…販売はされているんでしょうか。

 基本的にお客さんからの受注があったときに作りますね。あとは、自分が作りたいと思ったときに(笑)。完成した作品は自宅内のギャラリーで販売していますが、時々、富山市や魚津市でのギャラリーでも販売しています。来ていただいた方にじっくり見てもらいたいので、室内での展示や販売をしています。

ギャラリーに並ぶ作品たち

どんな木材を使用されていますか?

 木材は、硬くてしっかりしている欅(けやき)や栗、黒柿を使用していて、なるべく長時間乾燥された木材を使用しています。師匠や尾山製材所さんからいただいたり、購入したりしていて、提供いただく木材は数十年~百年以上長期間乾燥されているものもあります。

なぜ長期間乾燥された木材を?

 木材には湿気を吸い込んだり吐き出したりすることで周囲の湿度を調整する「調湿作用」があります。木でできた家が快適と言われる理由の一つですね。この調湿作用によって含水率が変化し収縮・膨張することで反りが発生します。短期間乾燥させた木材は含水率の変化が大きいため反りが発生しやすく、逆に長期間乾燥させた木材は含水率の変化が小さいので、作成に適している、というわけです。ただ、木材の表面と内部で湿度が違うので、削り、新たな木目になると反りが起こることがあります。作成途中の木材に反りが起こると作業が中々進まず大変ですね。

作品を作る寺田さん

指物の歴史は古いもので奈良時代からあると聞きました。昔の指物と今の指物では違いがあるのでしょうか?

 指物は古くからある日本の技術ですので、変わっていない…と思います(笑)。ただ、木で作られた物が多かった昔より、他素材で安価かつ多く作れる時代になったことから、買い手側の考えが変わったのかなと思うところはあります。

確かに…。日用品売場には木製品以外が多いかもしれませんね。

 今は指物以外にも様々な作り方がありますしね。プラスチックなどの安価な素材でできているものが多いと思いますが、なかにはリサイクルできないものもあったりします。逆に木材は、木として数十年~数百年と生き続け、伐採後も新たな形に加工され、数十年と使い続けることができ、最後は土となり自然に還り、また新たな生命となって生まれ変わる。そういった”優しい”良さが木材にはあると思います。

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大事な考え方ですね。寺田さんが思う指物の良さって何でしょうか?

 私が作るのは最後には土に還るものばかりなんです。なんかそれがいいなって。よくプラスチックのゴミが道に落ちてたりしますけど、プラスチックって自然分解されないものがほとんどだと思います。木で作られた物なら最後は朽ちて自然に還るから、やっぱり木製品っていいなって思いますし、指物は修理できるので長く使用できるのも良いですね。ほかにも、指物を作る過程で出た端材やおがくずなどは廃棄にならず、薪ストーブの火付けになったり、家の畑の肥料になったりして、採れた野菜を自分が食べている、そんなサイクルの一部に自分がいることや暮らしは自分で創ることができると考えると面白いなと思います。

色とりどりの野菜。季節によって様々な野菜が採れます。

正に生活の一部って感じですね!

最後に、指物を作ってきてよかったと思えたことがあれば教えてください。

 お客さんから、「これ直せますか?」という相談を受けることですね。普通、壊れたら直せないから新しいのを買う、直せるけど買った方が安いから新しいのを買う方が多いと思います。ですが、直して使い続けたい方の相談を受けると、その方が大事に使っているんだなと感じてとても嬉しくなります。今後は、金継ぎや縫いなど、ちょっとしたものなら自分で作ったり直したりできることもお伝えしていけたらと思っていて、指物以外でも今使っているものを大事にしてもらいたいなと思います。

 この活動はSDGsの目標である「12.つくる責任 つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう」に繋がります。取材の際、作品について寺田さんにご質問していると、凄く楽しそうに答えてくれるんです。思いが込められているなと感じ、気づけば筆者も食い入るように作品を見ていました。この記事を最後まで読んでいただいた方、ぜひ『指物工房cassetta(カッセッタ)』へ。作品の可愛さ、木の美しさ以上に感じる何かがあるかもしれません。


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