地域おこし協力隊として移住して7年 ~幸せのかたちを朝日町でみつける~
2017年に静岡県から奥さんと朝日町に移住して、3年間地域おこし協力隊の農業分野として活動された服部大介さん。任期終了後は朝日町に住まいを持ち、「何か付加価値を与えることができて、周りの人があまりやられていないことをやりたい」という思いで"うし太郎信繁"という社名で個人事業を立ち上げ、養蜂やつぼ焼き芋の販売、ひょうたんの栽培、加工を行っています。
今回は、うし太郎信繁の代表である服部大介さんに移住のきっかけや養蜂などの活動についてお話を伺いました。
ー社名である「うし太郎信繁」について教えてください。
家で飼っている猫の名前が「うし太郎」という名前なのですが、はちみつに何か関係があるわけでもなく、あまりはちみつと関係ない名前のほうが看板として色々やっていく上で良いかなと思って、猫の名前を借りて「うし太郎信繁」という名前にしました。
ー元々、静岡県民で地域おこし協力隊として朝日町に移住してきたということですが、移住して何年目になりますか?
2016年4月に移住してきたので、今年で8年目になります。
ー移住したきっかけはなんですか?
今思えば、静岡でも農業はできると思います。ですが、静岡で勤めていた時に仕事を辞めて農業のつてを探そうとしたときに、農業に関わっていない人間から見ると地元はそこまで人手不足もなく、農業で困っているようには見えなくて。それでも農業を入口にしたいということもあったので、静岡県以外のところも探してみようという思いから、当時行われていた移住ツアーに参加しました。
今も定期的に開催されている「グリーンツーリズムとやま」が主催している「とやま帰農塾」という地元特産物の農業を体験するイベントがあるのですが、最初はそのようなイベントがあるということを知らず、有楽町の東京交通会館にある『ふるさと回帰支援センター』に妻と2人で相談に行きました。その際に「富山だったらこんなツアーがありますよ」と紹介していただいて、たまたま朝日町を見つけたといった感じです。
それで朝日町の帰農塾に参加させていただいたのですが、夜は町長が来たり、近所に住んでいる方が遊びにきてご飯を持ってきて一緒に食べるなど、もてなしていただき、その時に非常に良い印象を持ったのがきっかけです。
農業を入口にされたのはなぜですか?
社会人として仕事をしていたのですが、業務が結構忙しくて、、、。それでいて会社から出る給料もそれに見合わず、やりたいことができないことに窮屈さを感じていました。雇われず生きるにはどうすればよいか考えたときに自分で稼げる力が少しでもつけば、幸せのかたちを自分で選べるんだろうなと思いました。考えた結果、自分で何か付加価値のあるものを作って売れば良いということに辿り着きました。農業に限らずの話ではあるんですけど、まずは入口を農業にしてみようということで農業を始めました。
ー朝日町に移住して最初の3年間は地域おこし協力隊として活動されていたということですが、地域おこし協力隊はどうやって知りましたか?
「地域おこし協力隊という存在自体は知っていたのですが、移住先を探している当時は協力隊の募集口を見て探していたわけではなく、普通にどこかで働きながら個人事業を進めていければいいな」と考えていました。朝日町に足を運んだ時、役場の人に「農業をやりたいのであればこういう制度もありますよ」と地域おこし協力隊という制度を紹介していただき、ちょうど、募集もしているということだったので、農業分野の地域おこし協力隊に応募して2016年4月から3年間活動していました。
ー地域おこし協力隊ではどのような活動を行っていましたか?
最初の2年間はフルタイムでお米や麦などを作っていました。最後の1年は、このまま卒業してもダメだなと思い、役場の担当課に相談しました。勤務日を週3日に減らして、勤務日以外の日で協力隊終了後の仕事の準備をしたい旨を相談して、受け入れ団体のほうにも話をしてくださりました。週3日勤務で活動して、活動日以外は新規事業の準備をしていました。
ー地域おこし協力隊での活動を通して、やりたいことの変化や心境の変化はありましたか?
雇われて生活するのが楽しければそれはそれでいいかなと思っていたのですが、自分で色々なことを始めたいという気持ちを再確認することができました。
ー朝日町で生活を始めて約8年になると思うのですが、静岡と違う点や大変な点はありますか?
雪がやっぱり違いますね。あとは寒さです。移住した当初は、静岡が温暖だったこともあり寒さに弱くて大変だったのですが、段々慣れてきてました。
ー夏の時期は里山の田んぼ跡を活用して養蜂を行っているそうですが、養蜂を始めたきっかけは何ですか?
富山に来たばかりの時は何をするか具体的に決まっておらず、最大3年間の地域おこし協力隊の任期終了後に何をやるか決めないといけませんでした。個人で農業を大規模化して農作物を生産するといっても中々難しく、共存できないので、小さく始めても競争できるものでスケールメリットが小さい事業は何かないか探していました。
ちょうど、協力隊の研修で岡山県の上山集落に行く機会がありまして、そこでは協力隊の方や元協力隊の方が棚田を再生していました。その集落の家を見た時、蜜蜂の巣箱が置いてあるのが目に入り、その時に「養蜂だ」と思い、帰ってきてから養蜂について色々調べました。
調べていくと非加熱のはちみつは普通のはちみつと別物として売れていくということで、養蜂は大規模化してもコストがそこまでかからず、個人でやっていけるものなのかなということで養蜂を始めたのがきっかけです。
ーうし太郎信繁で行われている養蜂について教えてください。
山の裾に田んぼ跡があって、夏場はそこに巣箱を置いて養蜂をしています。冬場は、蜂が越冬するための小屋を家の庭に作り、そこに巣箱を移動させて過ごしてもらっています。
冬の時期になると、蜜蜂たちは越冬モードに入り、寒さを凌ぐために群れでまとまって羽を動かして熱を生み出し、室内を一定の温度に保って春になるまで過ごしています。食糧は、自分たちが貯めたはちみつを食べています。
ーうし太郎信繁では里山蜜というはちみつを販売されていますが、特徴は何ですか?
非加熱と無添加が里山蜜の特徴です。一般のはちみつは海外から集めてくるものが多いと思うのですが、はちみつは種類によって固まる温度が異なります。例えば、寒いところだと結晶化して固まるはちみつや固まらないにしても粘性が高くて中々下に落ちてこないはちみつなどがあります。海外から輸入するはちみつは、輸送後に容器から出すときに100℃まで加熱してから取り出します。その後、小分けにして瓶詰めするときにもう一度100℃に加熱する合計2回100℃に加熱する工程があるらしいのですが、そうすると風味が飛んだり、ミネラルが損なわれたりします。本来は花によって香りや味が違いますが、風味が飛んでしまうと、全てのはちみつの味が同じに感じられます。
非加熱故に風味と香りが損なわれず、ミネラルも壊れていないので体にも良いのが特徴です。
また、非加熱のはちみつを食べると免疫力を高める効果や腸内細菌が活発になるとも言われていて、風邪を引いたら非加熱のはちみつを舐めると良いという方もいらっしゃいます。
ー養蜂をするうえで大切にされていることや気を付けていることはありますか?
蜜蜂も虫なので、農薬に弱いということで農薬の使用には気を付けています。特にカメムシ防除の薬がすごく有毒で、カメムシだけでなく昆虫全般を殺す薬なので細心の注意を払っています。農薬をまく日が分かれば入り口を閉めるのですが、夏の時期は中で蜜蜂が暴れて熱が上がりすぎて死んでしまう可能性があるので、網を巣箱に被せて蜜蜂が逃げないようにしています。
ー蜜蜂が持ってくる蜜はどんな花から持ってきますか?
季節によって変わるのですが、梅や桜、菜の花、栗、柿、カラスザンショウなど蜜が採れる木があって、それらの花が咲くのが4月~7月です。8月になると花が少なくなるので蜜の採れる量が減ります。
ーはちみつが採れる時期は4月~9月頃の期間ですか?
そうですね。概ねその期間なのですが、4月のはちみつは蜜蜂が群れを大きくするために、はちみつを使ってしまうので採れません。朝日町で4月にはちみつを採ろうと思ったら冬の間は寒くて蜜蜂も活動できないため、どこか暖かい地域で育てて、蜜蜂を大きい状態にして朝日町に持ってくる必要があります。しかし、そうすることがが難しいので朝日町では5月中旬からがはちみつが採れ始める時期になります。そして9月、10月のはちみつは越冬用に残しておかなければいけないので、大体5月中旬から8月の期間で採っています。
ー里山には巣箱を何箱ぐらい設置していますか?また、現在何匹育てていますか?
現時点では9箱設置しています。蜜蜂は1箱につき約2,000匹いるので、約18,000匹育てています。増やそうと思えば増やすことはできるのですが、一度、15箱まで増やした際に手が回らなかったので9箱に減らしました。
あの箱に2,000匹もいるのは驚きです。
ー里山蜜はどこで買うことが可能ですか?
現在は、15店舗のお店に置いてもらっています。手があいている時に「あそこだったら置いてくれそうかな」というところを回って売ってもらえるようにお願いしています。ふるさと納税の返礼品にもありがたいことに採用してもらいました。他にもネットや地元のマルシェで販売を行っています。
うし太郎信繁では、冬の時期はつぼ焼き芋の販売もしています。
ーつぼ焼き芋を始められたきっかけを教えてください。
小さな仕事を色々やりたいと思ったときに、たまたま地元の静岡で小さな仕事について教えてくれる人が身近にいまして、そこで焼き芋のことについて色々伺いました。焼き芋が手軽で良いという話を聞く中で、なんとなく焼き芋をやりたいなと思うようになり、私自身もつぼ焼き芋という存在について知っている状態で富山に移住しました。
その後、朝日町で地域おこし協力隊として活動していた時に富山でつぼ焼き芋をやっている方が来て、サツマイモを作ってくれないかと言われました。サツマイモを作り始めて、作ったサツマイモをその方に買っていただいていたのですが、その際につぼ焼き芋をやっている様子を見せていただき、これなら自分でもできそうと思い、その方につぼ焼き芋のつくり方やどこでつぼが買えるのかなど色々お聞きして作り始めました。
ーサツマイモはご自宅で育てられているのですか?
地区の畑を貸していただいて、サツマイモを作っています。
ー作られているサツマイモの特徴はありますか?
最近、焼き芋で人気があるねっとり系やしっとり系の品種を植えて育てています。甘みが強いのも特徴です。
ーつぼ焼き芋と石焼き芋の違いを教えてください。
つぼ焼き芋のほうが昔からある焼き方らしいのですが、石焼き芋のほうが早く焼けるので一般的に流通していると思います。つぼ焼き芋は、下に練炭を置いて、その上に普通の木炭を重ねてじっくり時間をかけて焼くので甘さがより感じられます。最近はつぼ焼き芋も見直されているみたいです。
ーどれくらいの時間をかけて焼くのですか?
目安は約2時間ですね。小さいものは約1時間30分で焼けるのですが、大きいものだと約2時間30分かかります。
ーどこで販売されていますか?
地元のスーパーで販売しています。隣町のスーパーでも一度販売したのですが、建物の構造上、風が強くて断念しました。風を避けられるタープを買ったら販売を再開したいと考えています。
ーひょうたんの栽培もやられているということですが、いつ頃から栽培を始めたのですか?
ひょうたんは栽培を始めて今年で4年目です。品種によって異なるのですが、1本で大体20個ぐらい作れます。
ーひょうたんを栽培している話ってあまり聞かないのですが、どうしてひょうたんを作り始めましたか?
周りで見ないものや腐らないもの、競争相手があまりいないものを探していた時にひょうたんがいいのではないかと思い、焦点を当てました。
ひょうたんがいっぱいぶら下がっていると、家に幸運が舞い込んできそうなイメージがあって。最近、ひょうたんのスピーカーも売られていて、ネットで「ひょうたんのスピーカー」と調べると、結構販売されているのですが、売切れの品もちらほら見かけます。売切れなのは多分ひょうたんがないから作れないのかなと思ったのも作り始めたきっかけの一つです。現在は、ひょうたんを加工して販売することを目標に日々、試行錯誤しています。
ー朝日町の良いところを教えてください。
県外から来たのですが、変によそもの扱いされるわけではなく、なにか強制されるわけでもなく、ただなんか困っていたら助けてくださる方がたくさんいらっしゃってとても協調性があるなと思いました。そういう部分がいいなと思います。
あと、朝日町には病院もあればショッピングセンターもあって、本屋もすぐに行ける範囲にあるのが住みやすくていいですね。
困っていたら助けてくれるという共助の文化、とても良いですね。
ー今後、やりたいことはありますか?
儲かることとちょっと背伸びしたらできそうなことがあればやりたいです。例えば、ヤギを買ってヤギに除草してもらう商売なんですが、自分の手の空き具合と一緒にやりたいという方がいればやりたいと考えています。
除草をこれぐらいやったらこれぐらいもらえるという相場や同じような事業について調べたうえでやれればと思います。あまり設備投資がかからず、ある程度儲かりそうなことをやりたいです。あと、環境に良いことができたらと考えています。
ーこれから農業を始めたい方に向けて何かアドバイスがあればお願いします。
大きい投資をして個人でやるのか、農業法人に雇われて働くかが選択肢としてあると思うのですが、私のように週2、3回アルバイトで使ってもらいながら個人であまりお金のかからないことをやるという選択肢もあります。今の時代、農業と一言で言っても色々な形があるので、その中で自分に合った形を選んでいけばよいのかなと思います。
朝日町に移住して地域おこし協力隊として活動後、養蜂を始められたということでしたが、この活動はSDGsの目標「3.すべての人に健康と福祉を」「12.つくる責任、つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう!」に繋がります。
noteを執筆している私自身も県外からの移住者なので、インタビューを行う中で共感する部分がとても多く、学ぶことがたくさんありました!
今後のうし太郎信繁の活動も楽しみです!
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